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堂崎の「龍王」

   まだ、堂崎の名は無く、東から玉之浦へ入る道も無かった。

そんな昔、瑠璃山(浄土寺山)の頂上の深い森の中、
少し窪んだ場所の小さな池
大昔からがのんびりと棲んでいた。
 これを知った玉之浦の住人は、長い日照りの続いた年には
みんなで恐る恐る雨乞いに向い
   ”龍王さま、雨が降らーで *おおじょう *しょうりゃんす
             *ちいとばー 雨ょー降らして *つかーさい
                                  お願いをした。
 優しい龍は、住人の願いを叶え、池にドドドーと水しぶきを立てて
水面に現れると、天に向かって真っ赤な炎を吐き、雲を呼び雷を響かせ
たちまちの内に雨を降らせた。

 住人はこの池を蛇が池、龍を龍王と呼び、
「龍王」と住人の平和な日々が永い永い間つづいた。

 玉之浦にも住人が増え、深い森もだんだん切り拓かれて行き、
とうとう、「蛇が池」の周辺にも人が住むようになり、今までの静けさが
保てなくなってしまった。
   そんなある日、日頃から親しかった曼荼羅堂のご住職に
「龍王」が打ち明けた。
  《 もう、ここではのんびりできないが、景色の良い尾道を離れて
     他の場所で暮らす気もしないので「天」に帰ることにしました 》
 
 翌朝、瑠璃山の頂まで登った「龍」は、
暫く「玉之浦」の景色を眺め、名残惜しそうにしていたが、やがて
ガラガラッと岩の音をたてながら山を降りると「曼荼羅堂」へ立ち寄り、
ご住職に丁重な挨拶をしたのち堂の庭をよぎり、一気に海へ入った。
ゆう然と松永湾を一周したのち、物凄い速さで瀬戸内海を泳ぎ、
あっという間に百貫島へたどり着いた。
 百貫島へ上がった「龍」は、雲を呼び、天空から延びた雲を捉えると
それを抱えるように大きくくねり、キラッキラッと金鱗を輝かせながら
この世のものとは思えぬ勇壮な姿で「龍神」になってしまった。

 それからと言うもの「玉之浦」の住人は、日照りが続いても
雨を降らせて貰うことができず、困り果ててしまった。
 そこで、住人達みんなで相談し「龍王」が海へ入った場所に
を造って御祀りすることにした。
 具合よく「龍王」が瑠璃山から降りた時の崩れた岩が沢山あった。
この場所は岩が沢山あって潮の流れが速かったが
   海の中にある大きな岩の上に祠を建てることにした。
       祠は龍王社、場所は堂崎である。   

   この「龍王社」は、雨乞いの神様として、近隣の人々や
 瀬戸内の島々の住民が鉦や太鼓を打ち鳴らしながら
 お参りしていたが、現在ではその風習は無くなった。
   また、海の守り神としても、玉之浦への出船、入船
 特に漁師さんたちは、必ずここで手を合わせてお祈りをした。

 その後「曼荼羅堂」は、龍の通ったお寺として海龍寺と改め、
海龍寺の東の谷には「龍」のつくった”洞穴”が有るとか!!

   昔の「祠」の場所は尾道大橋の橋脚になり
     今、陸に揚げられてしまった龍王社
        尾道大橋の橋脚の真下で
          「玉之浦(尾道)」を見守っている。

    夕暮れの「瑠璃山(浄土寺)」山頂から南に見える百貫島、
        キラッキラッと光る灯台の輝きを、
     「龍」の金鱗が光っているような気分で見ている私。


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